イノベーションのロスタイム

新規事業創出に関わる30代中盤・元外資コンサルが、仕事とそれにからめた遊びの話をします。

映画「アメリカン・スナイパー」感想~究極の会社員映画

 

最初に感想を言うと、会社員であることの幸福と悲劇が余すことなく描かれていました。

いま会社に身を置いている人もそうですが、これから会社を選び、しばらくの人生をそこで過ごそうと考えている学生の方々にもおすすめです。

「アメリカン・スナイパー」のあらすじ

アメリカの片田舎で荒くれものをしていた若者が、911をきっかけに海兵隊に入隊する。
彼はそこで、スナイパーとしての才能を開花させる。

スナイパーの仕事は、最前線で自国民を敵から守るものであり、それは彼が幼少から父に叩き込まれたカウボーイの思想にもかなっていた。それは「女子どもを狼から守れ」という言葉だ。
しかし彼がその才能を発揮すればするほど、国民の英雄になればなるほど、彼はその矛盾に悩まされることになる。
なぜなら、自国民のカウボーイであろうとスナイパーの仕事をすることは、前線でゲリラ的に襲いかかる「敵国の女子ども」を標的にすることを意味し、自分こそが恐ろしい狼になってしまうからだ。
そんな中、敵国の最強スナイパーとの対決が迫ってくる・・・

 

組織に最適化することの幸福と悲劇

主人公にはスナイパーの才能があった。しかしその射撃の才能は、民間の会社やフリーランスでは活かされないし、名誉も得られないでしょう。
彼の「遠くにいる人の頭をピンポイントで撃ち抜ける」という才能は、アメリカ軍という巨大な看板や資源や権限のもとでこそ存在を許され、フルに活かされる。

そして賞賛と報酬を得ることができる。

もし彼が米軍を辞めたら、彼はただのナンパとケンカが好きなニートになってしまう。彼はそれを痛感しているから、組織を離れるという決断がなかなか下せない。これは彼にとって悲劇といえます。

つまり彼は、大組織の中に身を置いてこそ才能を発揮する喜びと、多くの人からの承認を得られる仕組みの中にいるが、そこにロックインされている
彼がライフルの腕をあげ、海軍というコミュニティに自らを最適化すればするほど、彼はその仕組みから離れられなくなっていく。

そこには彼にしか味わえない幸福と、彼ゆえに抜けられない不自由の構造がある。


彼の幸福はそんな形をしている。

幸福のかたちと所属組織

もちろんその逆の人もいるでしょうね。
たった一人で絵を完成させる芸術家たち。
誰の意見も聞かず、己の野心と美学でプロダクトを書き上げる面々。
彼らの幸福は、一人で真っ白な対象と向き合うことでこそ浮かび上がる。
組織などというハコを必要としないし、むしろ組織によってスポイルされてしまうような、そんな運命の下に生まれたような人たちもいる。

どちらがいいとか悪いという話ではありません。

それぞれの幸福のかたちを追い求めていく過程で、組織という手段を必要とするのか、それを活用できるのか、といった分かれ目があるにすぎないからです。

 

だから、たまに発生するフリーランスと会社員のどちらがいいか論争も、この観点からすれば本当に不毛だとわかります。
勝利条件の違うもの同士が、どちらが幸せだのQOLが高いだの社畜で不幸だの言い張っても、比較もできないし比較から得る示唆もないからです。

そんなことより、自分にとって幸福がどんな形をしているのかを考える方がよっぽど大事です。
映画ラストの対決でも、その点は強調されます。

ライフルのスコープ越しに見える、その人だけの目標

終盤、最強のライバル、シリア人のムスタファとの戦闘。
周囲の誰もがムスタファなんかいないと言い張るなか、主人公はスコープ内のぼんやりした揺らぎを見つめながら「いる」と言い張ります。そしてその判断にすべてをかけて勝負に挑むのです。

我々には見えていない景色と標的が、彼には見えていた。蜃気楼でしかない色の歪みも、彼が見れば「誰の反対を押し切ってでも、狙い撃つべき標的」であった。

・・・ここから何を感じたか。

戦っていない人間が、戦っている人の見える景色を論評することは無意味だということです。
外野である我々からは何も見えなかったとしても、戦闘態勢をとっているその人のスコープには、その人が狙うべき標的が見えているかもしれないからです。

 

我々は他人の幸福を評価できないし、すべきではない、とも言えます。
そんなことより、自分のライフルをしっかり構えた方がいい。自分がそもそも何を狙っているか考えたほうが生産的でしょう。

 

会社員と就活生におすすめ

以上のように、この映画は「個人にとって幸福とは何か」「個人と組織のあるべき関係とは」という、普遍的な問いをぶつけてきます。
当然、イーストウッドも安易にどれがいいという描き方はしません。
それゆえ、見た我々がいまの身を振り返って自由に想像できる余地があります。

そんな器の広い映画でした。

 

 

仕事の合間に、就活の合間の映画におすすめです。

それではまた・・・

kensho

※仕事映画といえば、こちらもおすすめです。「ナイトクローラー」の主人公は、ある意味で自分の幸福感にまったく疑いのない(それゆえにサイコパスな)人物です。

そんな彼の怒涛の活躍を目撃してみてください。

 

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