イノベーションのロスタイム

ファーム勤務のコンサル から、アラフォーの独立コンサルになりました。

【読書】世界No.1コンサルティング・ファームが教える成長のルール~入社数年後にこそ読んでは?

汎用性の高い本なので、コンサル入社前に流し読みしておくと役に立つと思います。

後にも書きますが、入社数年目の人もあえて「ざっと」宝探しのように読んだ方がいいです。

世界No.1コンサルティング・ファームが教える成長のルール

世界No.1コンサルティング・ファームが教える成長のルール

 

 2014年ラーニングエリート企業200社中第1位(米国の人材育成最高責任者向け情報誌「CLO」)に輝いた、世界最大規模の陣容を持つアクセンチュア。
同社組織・人材戦略の第一人者が、社外のトップビジネスマンや社内のコンサルタントたちの能力開発に活用してきた「成長のルール」を始めて解禁したのが本書です。
通常は10年かかるスキル習得を3年で得られる同社の育成の仕組みに基づいたノウハウがわかります。(amazon紹介ページより)

本書の特徴・・・一般論ではあるものの、そこに価値がある 

テーマごとに、コンサル従事者としての教訓が書かれているタイプの本です。

コンサル従事者からすると「そりゃそうだよね」ということがほとんどですし、あげられている事例・エピソード(「毎日1%でも成長すると複利で〇倍」「パラダイムチェンジの例としての逆さ日本地図」「石切り職人になにをしているのか尋ねる」)に特に目新しいものはありません。

ただ、本書の項目の網羅性は非常に高く、このレベルのことを「当たり前のこと」と思えるようになることがコンサルの第一歩だと思います。

とくに第5章「人間関係構築力を磨く成長のルール」は、コンサル入社数年たった今だからこそわかる「社内外への心配り」が伝わってくるよい章です。

読後の感想・・・コンサルは人間が商品という原則を振り返りさせられた

在庫も商品も持たないコンサルは人材が唯一の資産…というのは各ファームともに内外に出しているメッセージです。

ひるがえって、内部にいるコンサルはどこまでそれを理解しているのか。

もっといえば、我々コンサルどこまで「人間が商品であることを痛感している」のかは、まだまだと思わざるを得ない状況があります。

毎日人間として成長するだけでなく、その成長がお客様への付加価値向上につながっているか(人間として商品性が上がっているか)は、こういう基礎をしっかり述べた本を通してたまに振り返ったほうがいいなと思わされました。

(以前書いた記事。コンサルは、人の心のスキマを埋める仕事でもあります…)

innovation-losstime.hatenablog.com

 

 誰におすすめか・・・入社後数年目の人にあえて薦めます

コンサル入社前くらいの人におすすめですが、あえてコンサル数年目の人が読むのもいいと思います。

 ぱらぱら見てると「当たり前じゃん~」ってなると思いますけど、数ページに一度はハッと振り返りになる教訓が見つかると思いますよ!

コンサルの魅力は「数か月に一回転職」できること

あらためて、コンサルの魅力ってなんだっけ?

30代も半ば、コンサル業務は心身に応えますね…

そういいながらも、こんなしんどい仕事を続けていられる理由は何だろう、と考えてみました。

給料は悪くないけど、30台中盤でアソシエイトクラスだと、そんなに一般的大企業と大きく変わらない。

仕事の経験が濃密に詰めるけど、どんな仕事だってやり方次第で濃い経験は詰める。

そう思うと、コンサルじゃなければいけない理由って案外少ないんですよね。

だから結構、まわりの「30代中途仲間」たちも、いかに40になる前にエグジット(=コンサル以外の業界に転職するか)を画策しています。

「俺もあと何年この業界いるかな~」は新卒・中途限らずどんなコンサルタントも一度は口にするため息のようなセリフです。

 

では改めて、自分はコンサルの何に魅力を感じているのか?

知的好奇心が常に満たされるから

私がよく新卒セミナーとかで必ず回答する答えがこれです。

うちのファームでは、数か月に一度、まるで転職でもするかのようにまったく違う業界のプロジェクトにスタッフィングされます。

(※数年間同じプロジェクト、同じクライアントに張り付くタイプのコンサルティングファームもあるので、すべてこうとは限りません。要確認ですが・・・)

 

それはほとんど、「数か月に一回転職している」ような状況です。

新しい上司と仲間、新しいお客様、知らない土地、初めて見る業界特有の施設(工場や倉庫、研究所etc)と関わることになります。

コンサルをしてお客様をご支援する、ということこそ変わりませんが、目にするもの、通勤場所、普段の話し相手、全てが変わります。

これはやってみるとわかりますが、結構楽しいです。

同い年の人間からすれば、10倍くらい転職を繰り返している格好ですね。

 

もちろん人間って新しい環境にはストレスを感じる動物なので、当然常にストレスを感じることになります。また、数か月に一度業界が変わるということは、業界知見もその都度リセットされるということです。(コンサルのノウハウは積みあがるけどね)

そういう状況が苦手な人には、消耗する仕事かもしれません。

 

ただ、知的好奇心が純粋に強いタイプ、「キャリア設計とかどうでもよくて、とにかく知らないことに触れて知っていくのが楽しい」という、まるで子供のようなワクワクが少しでもある人にとって、このコンサルという仕事は超楽しいと思います。

 

一見興味がないと思っていた業界でも、そこにお客様がいて、信頼関係ができてくると、まるで身近な業界に思えてきます。

そういう業界が数か月に一度増えてくると、日経新聞のどこを見ても「あの専務だったらこのニュース反応するだろうな~」と、全てに関心を寄せることができます。

 

こんな状況に興味がある方は、コンサルに向いてます!

できれば早めの転職をお勧めします笑

(参考記事。できれば、30代前半までに転職しておいたほうが得かな~と思います)

innovation-losstime.hatenablog.com

(コンサル中途入社考)30歳超えての中途入社はあまり勧めない

自分自身、コンサルに30を超えて入社し、数年が経過しています。

いまや30台中盤となり、なかなかの高年齢層になってきたと自覚しています。

そんな私が、自らを振り返って「30超えての中途入社は、結構きついな~」と思うことがありましたので、書いてみました。

30中盤~後半くらいで、入社年次が数年のコンサルの現状ってあまり情報が手に入らないと感じていたんですよね。

 

前提として、「30台前半で、ジュニアクラス~アソシエイトクラスへの未経験転職」を想定しています。

※いわゆる管理職(プロジェクトリーダー・パートナークラス)への転職はまた話が違うので割愛します。

 

身体的なしんどさ

これは一般的によく言われてますね。

最近は各社で労働時間是正が進んでいるとはいえ、往々にして労働時間が伸びがちな業界であることには変わりません。

特に直属の上司が、「疲れを知らない、頭脳も体も24時間ハイテンション」(大体新卒プロパーでプロジェクトリーダーまで最速で昇りつめた人に多いタイプ)な方になると、深夜に打ち合わせが設定されたりとなかなか消耗します。

私は 33歳くらいからかな、徹夜がまったくできなくなったんですね。

仕方なくする日もあるんですが、次の日はまったくもって最低の仕事ぶりです。

コンサル入って最初の数年って、どんなに効率よくやったところでキャッチアップに時間がかかるんですよ。調べもの、スライド作成、議事録作成、お客さんへの調整メール作成(地味に大変)とか。気づくと結構な時間たってるし、いわゆる仕事術で時間を短縮しても、空いた時間で資料の読み込みを進めたりしてしまう。

数年もすると、手の抜きどころというか、重要度の高いポイントが見抜けるようになるのですこし肉体的には楽になるのでうが、そういう「不可避的に肉体がきつい数年」は、正直20代後半までに終わらせておいたほうがいいかな、と思います。

 

精神的なしんどさ

事業会社とコンサルとで、精神的なプレッシャーに大きな違いはないと考えています。

ただ、精神的重圧の「種類」が違うと思うんですね。

「昨日までまったく知らなかった業界の人に、価値あることを言わなければならない」というのは、コンサル特有のしんどさだと思います。

この重圧は当然新卒であれ、コンサル中途入社のボリュームゾーンである「20台後半くらいの人も全員味わうものです。

しかし30以降の中途は特にこのしんどさを体感することになります。

というのも、お客様から見れば年齢や所作から相応の経験を積んで見えるわけですから、「それなりに経験のあるコンサルタント」という期待値が高いんですよね。

先週入社したばかりなのに、社内会議でも、クライアント会議でもなにか価値のあることを言わなければならないプレッシャーが凄い。

(このあたり、うまいごまかし方がないわけではないですが、本稿では割愛します)

 

それでもなお、コンサルへの転職価値はあると思います

とまあ、しんどいという理由から30歳以降の中途入社を否定的に書いてきました。

しかし上記を理解したうえで飛び込むだけの価値はあると考えています。

事業会社では味わえない、コンサルをやっててよかった!と思う瞬間が必ず来るからです。それについては別記事でゆっくり書いていこうと思います。

肉体的・精神的につらいことは不可避なわけですが、それゆえに「自分の体を守るために、仕事をどうやって効率的にするか」「お客様からの高い期待に応えるため、どうやって付加価値をつけていくか」を24時間意識することで、飛躍的に成長ができます。それは、コンサル業界以外でも必ず役に立つことです。

 

最後に、いまコンサル中途入社組でしんどい思いをしている方へ

そして、いま中途入社1年くらいのコンサルの方々の中には、さぞつらい思いをしている方がいると思います。少なくとも私はそうでした。

毎日胃腸は痛むし、自分の頭の良さに限界があることを痛感させられるしで、週に一度は「もう辞めよう・・・」と思う日々でした。

いまも、根本的な問題が解決したわけではありませんが、何とかそれなりにコンサルタントとしてやっていけています(プロモーションもうまくいきました)。

 

あわない仕事を無理に続けても仕方はないのですが、それでも科学的な努力を積むことでどんな人でも、人様から対価の頂けるコンサルタントになることができると思っています。

しんどいのは当然と思って、お互い頑張っていきましょう!業界の片隅から応援しています!

その孤独は金になる。心のスキマを埋める仕事とは。

ビジネスはスキマを埋めていく

ビジネスの多くは余ったスキマを埋めていくものです。

この世には、何にも使われずに余ったままの空白が、手つかずに放置されている。
ビジネスモデルの多くが、そんな余った空白を埋めていくことで成り立っていることは周知のとおり。
 

余ったスペースや車のシェアリング(Uber,Airbnbなど多数)

余った時間を再利用する(居酒屋の昼営業、ホテルのデイユース化など多数)

余った人を活用する(シルバー人材の活用など)

空白はあらゆる稼働を上げることによって満たされていく。
知恵という知恵を使って、もう埋められないスキマはないんじゃないかというくらいに。
 
・・・という会話を、先日個人コンサルタントとして独立して20年になる社長としていたんですね。
自分にとっては父親くらいの年齢の方です。
 
で、話はコンサルタントの歴史にもつながりました。
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・コンサルの機能も変化・進化している。
20年前は「先生業」でよかった。
やがて先生であること、すなわち一定の知識があり、一定の方向に主体的にリードすることは当たり前に求められるようになった。
 
・そして10年前くらいからは、先生であること以上に「経営企画室のスキマを埋める」ことが優先された。
経営企画室の若手~中堅を務める世代が、就職氷河期と一致していたことで圧倒的に層が不足していたことを背景に、経営企画業務の多くが外注されており、いまもその傾向は続いている。(大手コンサルでなくとも、個人コンサルはこの業務で結構食べていくことができた)
 
・そして現在、ありとあらゆる業務での人手不足から、コンサルは先生であることはもはや求められず、人材派遣業であることと同義になりつつある。それは自分としては面白くないため、派遣要素のある案件はあまり受けないようにしている。
(年齢的にも、作業ベースになりがちな高級派遣業はしんどいものがある)
______
 
・・・ここまではよくあるコンサル論だが、なるほどと思ったのは以下の点だ。
 

彼が長年コンサルタントを続けていられる理由とは 

・それでも自分がコンサルを続けられているのは、社長や経営企画部部長の「心のスキマ」を埋めているから

社長の心のスキマとは何だろう。なんだか、指を「どーん」と突き出すセールスマンが思い出されるが・・・
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もちろんシンプルに、社長やリーダーは孤独だからという理由を挙げることは簡単だ。
 
多くの社長は、その心中を軽々とほかの人に話すわけにはいかない。社内の腹心にだって話せないし、家族や社外の友人に話したところで、どこから漏れてしまうかわからないし、そもそも理解もしてもらえないだろう。
社長はただ秘密の話ができればいいというものではない。
そこに何らかの理解があり、そして秘密の話を吐露することによって何らかの発見がなくてはならない。
 
すなわち、社長の孤独は明文化され、評価を与えられる必要がある。
 

 社長の孤独へのサービス・ベンダーはだれか

それでは社長の心のスキマを特定し、それを言語化する、あるいは社長が言語化するのを手伝ってあげる職業とはなんだろうか。
 
彼は断言する。
社長の心のスキマを埋められるのは、占い師と、愛人と、コンサルだけやね
 
この列挙が漏れのないものなのか私にはわからない。だけど、なんか網羅されている気はする。(愛人はなんか満たしているものが違う気もするが・・・)
「で、仕事の細かい話が合わせられるのはその中でもコンサルだけだから、自分は重宝される。その辺の勘所が分かってないコンサルがとっかえひっかえされるのを見てきた」
 
だとすると、コンサルが付加価値を得ていくプロセスは以下の2点が主流になるのかもしれない。
・高級派遣業者として徹し、クライアントの経営企画業務を上位互換として実施する
・クライアント発注者の孤独の正体を特定し、それを言語化する必要不可欠なパートナーとなる
 
後者は、いわば「専属の教誨師」になることと言い換えられるだろう。
 
コンサルは、カウンセラーや怪しげなヒーラーたちと競合していく方向性があるともいえる(それをコンサル自身が望むかは不明だが・・・)
芸能人が整体師にいいように操られるニュースも、同じ構造なのかもしれない。
 
ただ厳然とそこには二人の人間がいる。
一人は満たされない孤独とスキマを抱えている。
もう一人は、それを埋めることができる、自分だけがそれを理解して聞いてあげられるという顔をしている。
 
この2者がマッチングする限り、その孤独には値段が付くのだ
 

自分の仕事は、誰の孤独を埋めている? 

おそらく自分も、無意識にしている消費のうちの多くは孤独を埋めようとしている。

自宅に直行せず、サウナや漫画喫茶に寄ってしまう。同僚ととくに名目無く飲んでしまう。kindleで漫画をまとめ買いしてしまう。
そこには、仕事でも家族でも埋まっていない無自覚な孤独があるのかもしれない。
(無駄遣いを格好いい言い訳でごまかしているようにも見えるが・・・)
 
ただ、孤独の正体が分かれば、そのプライシングはおのずと可能になります。
ビジネスは孤独に値段をつけるところから始まるのかもしれません
私は、誰の孤独を救済しているのだろうか?・・・を振り返ってみたいと思いました。
 
孤独について―生きるのが困難な人々へ (文春文庫)

孤独について―生きるのが困難な人々へ (文春文庫)

 
 ↑中島義道の名著。

【読書】「紀州のドン・ファン」~自らの性(さが)を知ることが幸福

ある老人が交際していた27歳の女性に数千万円を盗まれ、話題を呼んだ「和歌山の資産家」事件。その老人がまさかの自伝を出して、さらなる話題になっている。

 

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)

 

自己紹介がいきなり笑わせてくださいます。

直に会えばわかってくださると思いますが、私は傲岸不遜な男ではありません。それどころか小柄でひ弱で小心者で、人様を怒鳴りつけることもしません。腰は低いと思いますし、ただ腰を動かすのが好きな小市民なのです

そして彼は自らの人生を振り返り、こう総括する。

いい女を抱くために、私は金持ちになった

あまりにストレートな言い切りに、思わず目を引かれた人も多いのではないでしょうか?

で、私も引かれました。とはいえ、その内容に賛同するってことではありません。

自分のモチベーションを、ここまで明け透けに語れることの潔さに惹かれるものがあったからです。

「社会に貢献したいから」とか「こういう人の悩みを解決したいから」という動機づけが間違っているとか、ましてやきれい事だとかいう気はありません。

ただ、「いい女が抱きたい」というただそれだけのモチベーションで駆動している人がいたって当然だし、もう少しそういう話が世にあふれてもいいと思ってはいます。

ベンチャー界隈だと、露骨に金目当てみたいな話は基本回避されます。

「金一発つかんで、あいつらを見返してやるんです」なんてインタビュー、あまり見ませんよね。ストーリーとして美しくないと、ファンディングやチーム集めが難しくなるからでしょうか。

でも本当は、そういう人が一定割合いていいはずなんです。どんな動機であれ、作ったプロダクトやサービスが誰かの課題解決になっていれば、それは必ずヒットし、誰かの役に立ちます。 

そして、明け透けな、わがままな、露骨なモチベーションによって成功した事例は、必ず同じモチベーションを持つ人を勇気づけるのではないでしょうか。

それによって少しでもベンチャー界隈に才能ある、そして野心ある参画者が増えるほどエコシステムは活性化するのではないでしょうか。

・・・と、やや脱線しましたが、本書はそうした起業のもうひとつの真実(流行りの「オルタナティブ・ファクト」) を告げてくれる魅力的な自伝です。

 

 肥溜めにビジネスヒントを得る

彼はコンドーム訪問販売で一財産をなすわけですが、その発端となったエピソードも秀逸です。

仲間と鉄屑を探していた彼は、肥溜めに大量のコンドームが捨てられているのを発見します。

 関口が肥溜めをかき回している私を見て、声を掛けてきました。 「こりゃあコンドームですよ。こんなにあるんですね」 「馬鹿か、そんなもの汚いだろ」  呆れたような表情を浮かべた彼は、さっさと爆弾探しのために去っていきました。しかし、私は違うことを考えていたのです。肥溜めにこれだけの量のコンドームがあるということは、エッチはしたいけど子だくさんにはなりたくないという時代になっているのだなと想像したのです 

単なるゴミの山から、コンドーム大量消費時代を予見するという、良くできたエピソードだと思います。

また、彼は避妊具を訪問販売するという前代未聞の事業を起こすわけですが、とうぜん上手くいかないことの方が多い。

神様だって、スクイズを見逃す

営業努力がなかなか報われないことを、彼は特有のユーモアで表現します。

汗水垂らして頑張ればお天道様は見ていてくれる、とは古くからよく言われることですが、実社会がそんな単純なものではないことくらい、賢明な読者の皆さんは当然理解されていることでしょう。お天道様が地球で暮らす六十数億人の一挙手一投足をすべて見きれるわけがありません。野球でスクイズサインを見落とすように、お天道様も見逃しチョンボをしているはずです。

ユーモラスな表現でありながら、どこか運など突き放した、徹底的にドライな文章ですね。

「神などいない、無駄な努力しても意味はない」と言ってるわけですが、「神様だってスクイズを見逃す」という表現には、それに加えて「神様だってミスくらいする」という、諦念にも似た人間理解がにじみ出ていると感じました。

 

自らの性=さがを知り、行動すること

この本は一事が万事この名調子が続くので、全く飽きることがありません。下手な「私の履歴書」よりも読ませるキャラクターの強さがあります。

彼は徹底して「自分はいい女を手に入れたいから仕事をしている」というスタンスを最後まで崩しません。

そこには、ぶれなき自己理解があります。自分はこういう人間なのだから、こう生きるしかない、という諦めであり、不退転の決心です。

自らの性=さがは、重い十字架にもなりますが、同時に自らにとって幸福とはなにかを教えてくれるものです。

彼は自らの性を知り、それに殉じている。

その試行錯誤の日々は、彼が世間の評価などとは無関係に、幸福であることを教えてくれます。

本書は同時に、見栄や他人の評価にとらわれがちな我々を「お前は本当にそれがしたいのか?」と問われているようでもあります。

 

とりあえず、綺麗事のつまった凡百のビジネス書を吹き飛ばす良書です!

「肥溜めに金塊を見いだし、いい女を手に入れることを最優先にした男の七転八倒サクセスストーリー」を前にしたら、日々の小さな悩みなんて吹き飛びますよ‼

 

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)

 

 

 

「微狂いにして、最強の人」トランプ

いま時の人であるトランプ。過去に彼のゴーストライターだった人が、トランプの実像について語っています。

wired.jp

この記事、日に日に化けの皮がはがれてきているトランプの「虚言症」な一面について実体験から語っています。

多くの米国人はトランプのことを天才的なビジネス感覚をもった、口は悪いが憎めない大物実業家だと思っている。これこそ、シュウォルツがつくり上げたトランプ神話だ

・・・

トランプは口を開けば嘘をつくのです」とシュウォルツは言う。「わたしの知る誰よりも、彼は、いついかなるときでも自分が言うことはすべて本当であるか、あるいは少なくとも本当であるべきだと信じてしまう能力をもっているのです

・・・

シュウォルツは警告する。「もしトランプが大統領に選出されたら、自分たちの利害を代表してくれると信じて投票した人々は、トランプに間近で接した人ならすぐに気づく重大な事実を知ることになるでしょう。この男は自分以外の人間に少しも興味がないのだ、と

上記記事より引用 トランプのゴーストライター、良心の告白 « WIRED.jp

 上記を引用しながら思ったのですが、トランプは虚言癖のある人…そして、平山夢明の言葉を借りれば「微狂い(びちがい)」の人なのではないでしょうか

あげられた特徴が、ことごとくソシオパスで、他者とのコミュニケーションが断絶しています。

innovation-losstime.hatenablog.com

上記記事でも引用した箇所ですが、平山氏は「コミュニケーションを無視する側が常に勝利する」としています。いわゆる、「無敵の人」状態ですね。

 

人と人とがコミュニケーションをとるとき、そこでトラブルがあると、善性の高い人は相手を理解しようとする作業に入るんだよ。

でも、それがキ〇ガイ相手だと、一方通行。だから善意の人は負けてしまう。

誠実な人間、約束を守る人間が幸せになれる世界じゃないんだよ、日本は。

むしろ、奴隷認定されちゃう。

(「華麗なる微狂いの世界」第4章より ※本文は〇印の修正なし)

 ただしトランプは、上のWiredの記事でも指摘されていますが、本人にはうそをついているつもりは全くないんですよね。

ソシオパス(社会病質者)にとっては「今自分が考えていること・感じていること」がすべてであり、真実である。

それを否定する目の前の人間こそが、しゃらくさい嘘つきで、正義をもって叩き潰さなければいけない相手である。

はたからみるとまったく首尾一貫していないけど、本人の中では完全に背骨が通っている。

だから「勝ち続ける」…現実に勝つ場合もあるし、嘘が高じて法律的・ビジネス的には後退を強いられることもある。だけど、本人の中では相手がずるをしている設定になっている。だから自分は被害者であり、本当の意味では負けていない。

 

(50~60前後のオーナー社長に比較的こういう思考の人が多いイメージですが、まあこれは生存バイアスなのかもしれません。どうでもいい余談だけど、「あれを最初に作ったのは俺だ」ということを言いたがるのもこの世代の男性なんだけど、これは世代論なのか、地域特性なのか、ちょっと考察が足りない・・・)

 

かくしてトランプ(的なおじさん)は最強になる。

その裏側では、膨大な数の誠実なビジネスマンたちが、コミュニケーションコストをドブに捨てて無駄な戦いを強いられている。契約を裏切られたり、朝令暮改な命令を受ける形や、身に覚えのない恫喝を受けることによって。

 

この世界に生きようとすると、トランプ的なもの、との戦いは避けられない。

まっとうな敵は怖いが、その戦いによって得られるものは必ずある。

だけどトランプ的なものとの戦いというものは、虚言と恫喝と、自分だけに見える妄想を見て殴りかかってくる相手というものは、勝っても負けても激しく消耗する。

 

ベンチャー回りの戦いなんでほとんどそんなことばっかりだ。

化かしあい、業績のフカし、やりがい搾取、奪い合いが当たり前のように行われている。(もちろん、健全な競争も激しく行われている)

 

だけどそんな戦いを生き残りつつ、微狂いなるダークサイドに身を落とさずにやっていきたいからこそ、こうしてわが身を戒めるようにブログを書いている。

(まあ、こんなブログ書いてる時点で少し身を落としているのかもしれないけど…)

 

ベンチャーがますます増えているこの数年に、トランプがアメリカの頂点に立ったことが不思議とどこかでリンクしている気がして、こんな長文になってしまいました。

 

とりあえずWiredの記事は、読めば読むほど「ソシオパスあるある」として面白いよ!!

トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ (ちくま文庫)

トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ (ちくま文庫)

  • 作者: ドナルド・J.トランプ,トニーシュウォーツ,Donald J. Trump,Tony Schwartz,相原真理子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/02/06
  • メディア: 文庫
  • 購入: 5人 クリック: 16回
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 ↑これがシュワルツ氏がゴーストライターしたという自伝ね。

そういえばこれ、大学生の時に読んでた記憶がある・・・けど、内容は良くも悪くもフツーのビジネス本で、トランプに期待するアクの強いエピソードはそんなになかった記憶が。

【読書】『華麗なる微狂いの世界』~この世は狂った者勝ち?ソシオパスと成功者

ビジネスも「この世の中、狂ったモン勝ち」なのか!?

基地の外にいる人を語らせたら随一の小説家、平山夢明のエッセイ集最新刊「華麗なる微狂い(びちがい)の世界」が出ていた!

  

華麗なる微狂いの世界

華麗なる微狂いの世界

 

 

相変わらずの平山節が炸裂したナイスな一冊です。大変に人を小ばかにしたような表現が続くのですが、平山エッセイの魅力はそんなでたらめな文体の中にキラリと光る心理が潜んでいることです。

 

人と人とがコミュニケーションをとるとき、そこでトラブルがあると、善性の高い人は相手を理解しようとする作業に入るんだよ。

でも、それがキ〇ガイ相手だと、一方通行。だから善意の人は負けてしまう。

誠実な人間、約束を守る人間が幸せになれる世界じゃないんだよ、日本は。

むしろ、奴隷認定されちゃう。

(「華麗なる微狂いの世界」第4章より ※本文は〇印の修正なし)

こことか「コミュニケーション能力」の前提部分を語ってますよね。

コンサル業界でも、たしかにコミュニケーション能力は重視されます。それは「Qに対してAで答える」みたいな基礎から始まって、「相手の要求を構造化して示してあげる」みたいな応用編まである。

ところが、「そもそもコミュニケーションを取る気がない相手」と向き合うと、新卒コンサル君なんかはショートしちゃうんですね。または私みたいに、中途だけど妙に四角四面な人なんかもこういう相手に苦労しちゃう。

お客さんにも、社内にもコミュニケーションが断絶した相手というのは一定数います。

「そもそもまったく違う議論の前提を押し付けてくる上に、譲る気がない」

「そもそも出したい結論が一つだけ決まっているらしく、ディスカッションが成立しない」

「だけど妙にイキオイはすごいから、こちら側(自分含む)が完全に気圧されてる」

みたいな状況、オーナー社長やたたき上げでコンサルのパートナーに昇りつめたタイプとかに多いです。

 

自分の周りを見渡しても、「成功したソシオパス」が多い

普段は気さくで触れ合いやすいけど、ふとした瞬間に「まったく会話が成立しない」ことが判明してしまう。新卒君(ひとくくりにするのもあれだけど)をメンタルで通院させてしまうのは社内外問わずこういうシチュエーションです。

こちらも四角四面に正論をぶつけようというわけではないけど、そもそも相手側にこちらを理解しようという姿勢がないことが分かると、人はけっこう消耗しちゃうもんです。「この人、人の話なにも聞いてないし、今後も聞いてくれないんだな・・・」と。

(ちなみに私は十二指腸を痛めました・・・)

 

じゃあそういう人が社会人としてだめなのか、というと少なくとも客観的にはそうじゃないんですね。上にも書いたように、社会的地位はかなり高い人が多い。

「人の話を聞かないくらいじゃないと、上に行けないんじゃないか?」と悩んだ時期もあるくらいです。

個人的には、そうとは信じたくない。他者とのコミュニケーションを断絶してなんらかの成功がえられても、それは持続的な状況ではないと思うからです。

ただし、数多くの基地の外にいる人を見てきた平山氏は言い切ります。

 ハッキリ言います。この世の中、狂ったモン勝ち。

「成り上がり」じゃなく、「キチ上がり」を目指して

みんな、キチガイになろうぜ

(同書)

 ・・・ここまで言い切られると気持ちいですね。

社会的なサイコパス=ソシオパスが成功しやすいと断言している。

 

この世は狂った者勝ち、ならばどう生きようか

じゃあ自分も狂っちゃうぜ!狂わなきゃ損だもんな・・・とはならないよね。自分の場合。

だから、せめて自分を無にするスイッチくらいは身に着けておくといいだろう。

まともに相手すると、自分の論理回路がショートしちゃうくらいなら、一回OFFにしておいたほうがいい。

前頭葉と反射神経だけで会話をこなし、「ああ、なんかとんでもない人と会話したな」くらいの感覚だけが残るように自分を鍛えていきましょう。

(まあ、無駄なスキルだからさっさと逃げるのが本当はいいんだけどね)

 

・・・そんなことを考えさせられるほどに、人間のうっすらとした狂気について面白おかしく考察している本です。

もしかしたら、下手なビジネス本とか、コミュニケーション本を読むよりも仕事の役に立つかもしれない。

自分がちょっと真面目で、周囲とどうあわせていいかわからない若者には、特におすすめ!!

 

華麗なる微狂いの世界

華麗なる微狂いの世界