①銀と金
土壇場でオーナーシップを発揮できるか?
カイジの作者が、その引き延ばし病を発症する前になした傑作。
コンパクトに作者のやりたいことが詰まっており、
「ジュニアがシニアに成長する様子」と相似だなと思いました。
共通点は何か。
それは「オーナーシップを獲得していく」という成長の仕方です。
主人公である森田は、これといって実績も経歴もない無職の男です。
それが闇社会のフィクサーと行動を共にするうち、彼からの教えを身に着けていくという成長譚となっています。
彼はことあるごとに命がかかるほどの危機的局面に直面します。
「どうする・・・?」と彼はその都度自問し、解決の道筋を探るわけです。
最初は単純に状況にリアクションするに過ぎなかった森田ですが、だんだんと自分の頭で考え、自ら行動することが増えていきます。
まるでコンサルのジュニアクラスが、最初は言われたことだけこなしているのに
やがてプロジェクト全体の意図やクライアントの意向を先取りして
マネージャーロールまで手が回り始めるあの様子にも似ています。
その白眉は、森田がある程度の金を渡されて、フィクサーから放り出されるところです。これは言わば、VCから出資だけ受けたけど事業もコネも無いベンチャーみたいな状況です。
そこから彼は、「どうやったらこの金を活用できるか??」という一点にむけて活動を開始します。その道筋たるやかなり荒唐無稽なスキームで、そのプロジェクト自体はとても漫画的です。
しかし、何も支援のない、何のヒントもない環境から
試行錯誤しながら状況を打開していく、その様子は大きな共感をもたらします。
我々にしても、仕事をしていれば「どんづまりの瞬間」みたいなのがやってきます。
答えがでない。知恵も助けもない。そもそも状況が理解できない。
でもたった一人で何らか状況を解決していかなければならない。
仕事をするとそんな瞬間ばかりです。ため息がでます。
森田を見ていると、そんな状況を打開する「オーナーシップ」のあり方を思い出すのです。
・いまこの場をなんとかできるのは自分であり、
・あやふやでも答えを出すのも自分であり、
・その答えを無理やり正解に変えていくのも自分である
という、あらゆる仕事で求められる姿勢ですね。(これを過度に求めすぎるとブラックになって危険なのですが、いったんその話は置きますね)
漫画自体もエンターテイメントに徹しており、仕事している人ほど楽しめると思います。
②できるかなV3
理不尽だろうが、信念で戦いきる姿勢
西原理恵子は恨ミシュランを読んで以来一貫してファンです。
巨大な権力や権威と戦おうとする姿勢と、独特のワーディングでの世界の切り取り方。
数々の模倣者を生みながらも、いまだにエッセイ漫画の王者の一角を占めているのではないでしょうか。
本作品の冒頭に掲載されている「脱税できるかな」はとうとう国家権力と戦うに至ります。一億円(!)の税金を払えと言われた西原は、「誰が払うかそんな金」と税務署に徹底抗戦することを決意します。
もちろん正義は税務署側にあり、西原はあくまで必死に脱税しているに過ぎません。並の作家が描けば「いや、国民の義務なんだから払えよ」と炎上して終わりでしょう。
しかし西原の手にかかれば、「納得いかないから払わないんだ」と理不尽に抵抗する姿がエンターテイメントになってしまう。
異様にコミカルに描かれるその交渉は、「恨ミシュラン」の頃からなにも変わらない西原の戦闘的姿勢そのものです。
税務署との交渉を経て、1億がまず5千万に減額された時の啖呵が笑えます。
誰が払うかそんな金!!
だいたいなんだ税務署、ちょっとゴネたらいきなし半額
パキスタン人のジュータン売りかおのれら!!
コンサルの仕事も泥臭いものが多いですが、果たしてここまで戦いきれるのか?
もちろん脱法行為はいけませんが、自分がおかしいと思ったことに
ここまでこだわって長期戦を戦い抜けるか?と問いかけられるような気がします。
とりあえず読後は、パートナーやシニマネからの無茶ぶりなんて
「そんなの意味ないんで、こっちの論点掘りましょうよ」と突き返せる気がしてきますよ。
あと地味に、後半に掲載されている「ホステスできるかな」も良作です。
西原の最も得意とする「労働とその喜び」が描かれていて読んでて単純に楽しい。
仕事に疲れた時にも元気の出る一冊です!
③逆境ナイン
コンサルの仕事なんて、もうどうしようもない瞬間との戦いだ。
時間がない。
リソースがない。
新卒ジュニアのマインドが中2病で手間がかかる。
クライアントがスコープ無視のちゃぶ台返しをしてくる。
味方のはずのパートナーが、思い付きでチームを振り回してくる。
…
そんな理不尽に日々直面するコンサル諸氏には、この作品は大いに笑えるものかもしれません。
野球部存続のために、たった一年で甲子園優勝を目指すことになった野球部の奮闘を描くこの作品。
島本和彦が、作品全体の破綻を招きかねないほどの燃える情熱を叩き込みながらもほぼ破綻をきたさずに描き切った稀有なものです。
全編を通して出てくるセリフがこちら。
「これだ…これが逆境だ」
このセリフを頭でつぶやいたことのないコンサルがいるでしょうか?
この作品はありとあらゆる逆境を主人公にぶつけ、先のセリフを呟かせます。
そして得体のしれないロジック(というかアジテーション)によって
事態に何らかの決着を付けるというものです。
この作品に出てくる理屈や行動は正直仕事に一切役立たないのかもしれません(笑)
ただし、逆境を受け止め、楽しみ、意地で乗り越えるという「激情」みたいなものを感じ取ることはできると思います。
そんな激情にさらされていると、逆境だと思っていたものも実は単なる一つの状況に過ぎない、という諦観とも達観ともいえない境地に到達します。
本作は私も仕事がしんどい時に先輩におススメされて読んで、そして最近はへこんでいる後輩がいると薦めるようにしています。
そして読んだ次の日の反応は以下のようなものです。
「なんすかあの漫画w」(苦笑)
でも苦笑できるくらいには、ちょっと元気になってるんですよね。
私もそうでした。
〇まとめ
3作品に共通して言えるのは、
「とてつもなく困難な状況を、己でリスクを取りながら切り開いていく」
という状況を描いた作品である、ということかもしれません。
この状況は、コンサルに限らず、起業家だろうが、将来に向けて勉強する学生だろうが
必ず直面するものであり、そこで戦う姿は職業や立場を超えて共感してしまうものです。
仕事の休憩がてら、気になる作品があればチェックしてみてください。
各作品のレビュー欄見てるだけでも面白いですよ!